たとえば、
僕のプレステ2で観られるDVDは6割程度だし(観られない時にはたいていPCを使う)、
1本の電車が2分遅れただけで、目的地に着くことが15分遅れることもあるし、
1試合のナイターのせいで、ごっつええ感じが終わってしまったりもする。
だからと言って、特別誰かが悪いというものでもない。
もしも誰かが悪いのだとしたら、それは僕だ。
そんな世の中の不条理さに、人々はいつも悩まされる。
ヨウキチもその一人だった。
ヨウキチはほとほと嫌気がさしていた。
ヨウキチは風呂に入りながら、ひとりでブツブツ文句を言っていた。
僕はちゃんと宿題をやっていった。
そしてノブ君が勝手にそれを覗いたんだ。
別に僕が見せたわけじゃない。
それなのに、何で僕まで一緒に先生に叱られなければならないんだ。
ヨウキチは湯船に顔を漬け、
そして声にならない叫び声を泡と共に吐き出して、顔を上げた。
その時、突然誰かが話しかけてきた。
「なあ、ヨウキチ」
ヨウキチはドキッとしてキョロキョロしたが、誰もいない。
「俺だよ、石鹸だ」
ヨウキチはギョッとして石鹸に目を向けたが、
石鹸はいつも通り、箱の中にポツンと収められていた。
別に、目だの、口だのが、できてるわけではなかった。
狐につままれた様な目をしているヨウキチを尻目に、その声は続けた。
何か色々大変なみたいだけどさ、
そんなの、俺たち物にしてみたって同じことなんだよ。
俺たちだって、楽なもんじゃないんだぜ。
何でだよ、て叫びたくなることもしょっちゅうだ。
俺たちの人生ってのはな、
でっかい鍋でドロドロにされるまでは皆一緒だ。
勝負は四角い型に流し込まれるその一瞬。
その一瞬で全てか決まるんだぜ。
いかにして外側で固まるか。それが俺たちの人生の全てを決める。
考えてもみろよ。
石鹸なんて、最後まできっちり使い切る奴なんかいないだろ。
たいてい、ちっちゃくなっちまったら、
適当に排水溝に流されるか、ドロドロになるか、ゴミ箱に捨てられて終わりだ。
運良く、新しくおろした大きい石鹸にくっ付けて使ってくれる人間に巡り会ったって、
実際のところその人に迷惑をかけるだけなんだ。
だって、小さくなった石鹸って、泡立ちにくいじゃないか。
何でか知ってるかい?
もちろん、表面積が小さくなるからってのもあるさ。
でも、それだけじゃない。
水気の多い場所にずっと置かれてるせいで、
化学変化を起こして泡立ちにくくなっちまうからなんだ。
悲しい化学変化だぜ、俺たちの起こす化学変化は。
夜空に打ち上げられてドン、ていう花火みたいに、
華やかなもんじゃねえんだよ。
おっと、長々と悪かったな。
まあこんなの、俺の単なる愚痴さ。
お前もさっさと歯でも磨いて早く寝な。
そうそう、歯磨き粉の連中にしたって苦労してんだよ。
どんなにうまく使ってくれる奴に買われたって、
最後まで使われずにチューブと一緒に捨てられちまう奴が、
絶対に出てくるんだからな。
俺たちの人生って、自分の力じゃどうにも変えられないんだよな。悲しいもんだろ。
あんたら人間は、自分で何ぼかもがくことができるだけ、まだやりがいがあるんじゃないか?
お前の人生は、お前の手の内にあるんだからよ。
ま、それはそれで、色々大変なこともあるんだろうけどさ。
そこで声は止まった。
残ったのは、水道から滴る水滴がポタ、ポタ、と湯船に落ちる音だけだった。
ヨウキチはその水滴を歯ブラシで受け止め、そして丁寧に歯磨き粉を搾り、歯を磨いた。
もう片方の手で、歯磨き粉のチューブをこねくり回し、チューブの中身を掻き混ぜながら。


